死因究明制度「内容に問題」―医療系学会
キャリアブレインニュースから抜粋。
■「わが国の救急医療が崩壊」−日本救急医学会
「第三次試案は救急医療の本質への理解が十分ではない。試案そのものには反対」との見解を表明
■「このままでは賛同できない」−日本麻酔科学会あいまいな部分や法的・制度的な裏付けがない5点を列挙。医療安全調の設置自体には「賛同」としているが、運用について異論を示し、再検討を要求している。
■「重過失の定義変更を」−日本産科婦人科学会既に示している「医療事故に対する刑事訴追に反対する見解」などの主張は変えないとするとともに、試案通りに医療安全調が創設された場合の制度的欠陥など3点を指摘している。
■「現場の意見を聞いて検討を」−日本内科学会「法制化する場合は医療現場の意見を十分に聴取して条文を定めるべき」として7点の不備を指摘、再検討を要望している。
■「刑事免責確立を」−日本脳神経外科学会医療安全調の独立性の担保と、重過失の定義を明確化するよう求めた。
■「全会一致で反対」−日本消化器外科学会「理事会全会一致で反対」を表明している。その上で、3つの問題点を改善できなければ、試案に賛成できないとした。
■「医師法21条改正を評価」−日本外科学会声明は「医療安全調設立の精神を支持する」としている。
こうやってみると外科学会の空気の読めなさっぷりが際立ちますね。
いえ、産婦人科も大きなことは言えませんが。なにせ1人で暴走してる日医の理事は産婦人科ですから。
それにしてもこれが他のマスコミだと主要学会が賛成になっちゃうんだから、変なフィルターか変換装置が脳内にあるんじゃないでしょうか。
それに引きかえキャリアブレインは最近良い記事を書いてくれてます。転職とか求人とか、今はお世話になることもないけれど、こうやって医療職種を引きつけていくっていうのは企業の戦略としてはアリですね。
崩壊2分前
周産期死亡率が上昇する要因の一つとして、地域の二次施設からハイリスク分娩を受け入れる能力が急速に失われている事が可能性として考えられます。
おおざっぱにいってローリスク分娩は有床診療所(一次施設)、ハイリスクは総合病院(二次施設)でといった役割分担がされています。
当たり前の話ですが、ノーリスクな分娩というのは存在しません。あるのは比較的リスクが低いと思われるローリスク群と、明らかに合併症があったり高年齢だったりするハイリスク群のみです。これが100%安全な分娩など存在しないということの意味です。
そこでローリスクを扱う一次施設に求められるのは、きっちり妊娠を管理して潜在するハイリスク(たとえば胎盤・臍帯異常や心奇形などの胎児異常など)を分別する能力です。これができなくては一次施設でハイリスクを扱うのと同じ結果になり兼ねません。
そして真に恐ろしいのは、ロ−リスク群の中から突然現れるハイリスク症例です。常位胎盤早期剥離、急性妊娠性脂肪肝、HELLP症候群、といった急激な進行で発症し予後の悪いものはいち早く発見し対処する必要があります。
また、全く異常なく進行中の分娩であっても、生まれてみたら新生児の具合が非常に悪いというのもよくあることですし、母体側にしても、分娩後の異常出血など予測できない緊急事態はしばしば発生します。
一次施設において帝王切開に対応できる能力を持つことなども重要ですが、地域の周産期医療体制がしっかりしていれば、つまり一次から二次への搬送がスムースであれば、一次で対応しきれないリスクをカバーすることが出来ます。
しかし最初に書いた通り二次施設の能力が落ちてくると連携がうまく行かなくなり、搬送に要する時間、距離が増大します。緊急時というのは一刻を争う事態なわけですから、不幸な結果が増大するのも自然な成り行きです。
現実の問題として、二次周産期医療が地方を中心に崩壊している現在、受け皿の無いハイリスクを避けるために一次施設の縮小も始まっています。行き場の無くなった妊婦は越境するか未受診妊婦となるしかありません。これが分娩難民の発生という問題の本質です。お産する場所がないからとりあえず設置コストの低い一次施設を増やそうというのは問題の解決になんら寄与しません。むしろ現存の二次施設のカバーすべき負担が増え、崩壊のスピードが増す一方です。
さらにいうなら、一部に見られる「医師の負担を減らすために正常な分娩は助産師外来、助産院で」という主張は何の意味もないどころか、たちの悪い寝言でしかありません。きちんと管理されていない妊娠ほど医師の負担を大きくするものはないからです。
結論としては、この先、周産期死亡率が悪化するのは必然です。おそらくそれは今後5年以内に全国レベルでそうなるでしょう。それを避けることが出来ないまでも、暗黒の期間を短縮するために何ができるかを考えるしかありません。
例えるなら今は世界終末時計の23:58 (2 Minutes to Midnight)辺りでしょうか。
日本の周産期死亡率および諸外国との比較
崩壊のさなかにあっても、周産期死亡率は低下しています。が、東北地方を中心にこの一年で上昇に転じている地域が現れています。
全国レベルで上昇に転じるのは時間の問題だと思われます。
母子保健の主なる統計 平成19年度版より
周産期死亡率が上昇している地域(平成17年度と18年度の比較)
もちろんこの程度の比較でははっきりしたことは言えません。H16年度から引き続き上昇している地域もあれば、低下から上昇に転じた地域もあります。
しかし、この地域の偏りは何かを示唆しているとは思えませんか?
都道府県 | H17 | H18 |
---|---|---|
青森 | 5.3 | 6.4 |
宮城 | 4.7 | 5.1 |
秋田 | 4.7 | 5.9 |
山形 | 4.5 | 4.7 |
福島 | 3.9 | 4.0 |
栃木 | 4.4 | 4.8 |
群馬 | 5.0 | 5.6 |
埼玉 | 4.7 | 5.1 |
新潟 | 5.1 | 5.2 |
富山 | 4.0 | 6.8 |
福井 | 4.0 | 4.2 |
三重 | 4.9 | 5.2 |
滋賀 | 5.6 | 6.2 |
奈良 | 5.3 | 6.2 |
和歌山 | 4.5 | 4.6 |
山口 | 3.7 | 5.1 |
佐賀 | 3.6 | 3.8 |
熊本 | 4.3 | 4.6 |
大分 | 3.8 | 5.2 |
鹿児島 | 4.0 | 4.5 |
常位胎盤早期剥離の自験例
これから書くことは、ちっとも珍しくない、産婦人科医だったらだれしも一度や二度は経験しているような出来事です。
あれは5年ほど前だったか。
36週ごろの妊婦さんから夜9時頃電話。出血が少量あり、何となく腹緊があるとのこと。
(うーん、お徴だろうなー。もう少し様子みて規則的になってからでも良いかなー。)
「もしもし?おなかの張りはどれくらいですか?」
「そんなに強くないんですけど、まだ大丈夫でしょうか?」
「診察しなければ大丈夫かどうかは分かりませんよ。ご心配なら念のため来てください。」
「えー、今からですかー?」
「はい、今から来てください。」
こんなやり取りのあと、30分ほどしてから来院、そして内診。あれ?なんか出血が大目だぞ?
「いつから増えてきました?」
「ちょっと前です」「少し痛くなってきました」
結構子宮は収縮している。何かイヤな予感がする。いや、これは板状硬だ。
ドップラーで児心音聴取。……徐脈。疑念が確信に。
経腹エコー。胎盤が厚くなっている、早剥は確定的。児心音は持続性の徐脈。
近隣病院に連絡、すぐに搬送受け入れOKをもらう。しかし、ここから救急車で20分の距離。
夫に早剥の診断であると病状説明。
「赤ちゃんは助からない可能性が大です、あきらめてください。母体もこのままでは危険です。救命のために緊急搬送します。」
この時点ではかなり妊婦さんは痛みを訴えています。
分娩進行者がいましたが、そちらは助産婦にまかせて救急車に同乗。
結局、胎児死亡は免れませんでした。母体は術後にDICから乏尿となり、一時的に透析導入となったものの半月後には無事退院され、夫と二人で挨拶にみえました。
経過からみて羊水塞栓を発症したと思われる静岡の事例とは明暗分かれましたが、何が違うというほどの違いはありません。紙一重です。
もし、発症からもっと長時間経ってたら。
もし、DICがもっと重症だったら。
もし、羊水塞栓を発症したら。
もし、搬送先がなかなかみつからず、見つかった先が遠方であったなら。
かなりの確率でこの方の生命は今は無かったはずです。
この方がそうならなかったのは、運でしかありません。たまたまジャンケンに勝ったようなものです。
静岡早剥事件の考察
一貫して遺族関係者と名乗っている方が訴えているのは、担当医からの説明と記者会見を報じた記事の内容が異なっていること。この差異によって病院への不信が増幅されている。
それによると、大きな違いは
「死因はわかりません、他の病気の併発が
原因だろうと聞いていたのに後日の発表では
大量の出血により死亡」と書いてありました。
当日の発表と後日の厚生病院の発表が変わるのはあり得ないことなのです。
ここに尽きる。
しかし、大量出血のために死亡したという報道はあったのだろうか。
前記の静岡新聞はそのようには書いていない。産経、毎日も同様である。ただ讀売のみが
記者会見した玉内登志雄院長によると、妊婦は出産予定日を3日過ぎた4月27日朝に産気づき、診察を受けるなどしていた同病院に来た。胎盤が分娩(ぶんべん)前にはがれる胎盤早期剥離(はくり)と診断され、医師が帝王切開したが、胎児は死亡。その後、妊婦も大量出血を起こし、同日午後に死亡した。
と紛らわしい書き方をしている。実際この書き方では出血のために死亡したと読んでも不思議ではない。
他紙では「死因は不明」という報じ方をしているのだから、恐らく会見ではそのように院長は語ったのであろう。報道を見て遺族が病院への不信を募らせたのであれば、この記事の罪は重い。
静岡早剥事件
産科医療のこれから より
静岡厚生病院にて発生した常位胎盤早期剥離による母体死亡例の件
今までに出てきた情報の抜粋。
遺族関係者が書き込んだと思われる担当医の経過説明
9時05分頃、腰椎麻酔施行
0.5%マーカイン 2.0mlを使用
仰臥位となり消毒、手術開始:9時15分
胎児を娩出:9時24分 分娩時に胎児死亡を確認
小児科医にもその場で診て貰ったが9:27死亡確認強い出血はなく、子宮は保存可能と判断、子宮を温存することにした
閉腹前に不穏状態、けいれん様の動きあり
鎮静剤、抗痙攣剤の投与も行った
10時45分手術終了(手術時間1時間30分)
手術室を退室子癇発作、脳出血などの合併も考え、頭部CT撮影を決定した
CT室に脳外科医も同室、明らかな脳出血、浮腫はないとのこと2階201に移動し、蘇生を実施
11:32 気管内挿管(自発呼吸あり)
12:24 人工呼吸器へ接続
12:35 循環器Drへ連絡、診察
13:20 より徐脈
13:40 心停止
上記に記したものが当日に遺族が担当医からもらったその日の状況を
まとめていただいたものです。皆様はこれを読んでどのようにお感じになるかはわかりませんが、
上記が事実なのです。これには大量出血・輸血をしたという事は
一切書いてありませんでした。
また、死後約2時間後にされた担当医からの口頭での
説明の中でも大量の出血に備え輸血の準備はしてあった、
ただ、強い出血は確認できなかったので輸血はしなかったと言っていました。死因についても当日には
「死因はわかりません、他の病気の併発が
原因だろうと聞いていたのに後日の発表では
大量の出血により死亡」と書いてありました。
当日の発表と後日の厚生病院の発表が変わるのはあり得ないことなのです。
大量出血の妊婦死亡、胎児も助からず 静岡の病院05/02 14:52
(略)
同病院によると、妊婦は分娩(ぶんべん)予定日を3日すぎた4月27日午前0時ごろ、陣痛が始まったと同病院に電話連絡。対応した看護師、助産師は問題がないと判断し、自宅待機を伝えた。妊婦は約6時間後に再度電話で訴えて来院し、同日午前8時すぎに医師が診察したところ、既に胎児の心拍は無かった。母体は、胎児がまだ子宮内にいるのに胎盤がはがれてしまう症状「胎盤早期剥離(はくり)」が確認された。緊急帝王切開を行い、子宮内から死亡した胎児を取り出した。母体は3リットルを超える大量の出血があり、輸血を含む5リットル以上の輸液で対処したが、けいれんや意識レベルの低下が起こり、妊婦は同日午後1時40分ごろ死亡した。
妊婦は昨年9月に同病院を初めて受診し、死亡2日前の4月25日の診察では母子ともに異常はなかったという。