崩壊2分前

周産期死亡率が上昇する要因の一つとして、地域の二次施設からハイリスク分娩を受け入れる能力が急速に失われている事が可能性として考えられます。


おおざっぱにいってローリスク分娩は有床診療所(一次施設)、ハイリスクは総合病院(二次施設)でといった役割分担がされています。
当たり前の話ですが、ノーリスクな分娩というのは存在しません。あるのは比較的リスクが低いと思われるローリスク群と、明らかに合併症があったり高年齢だったりするハイリスク群のみです。これが100%安全な分娩など存在しないということの意味です。


そこでローリスクを扱う一次施設に求められるのは、きっちり妊娠を管理して潜在するハイリスク(たとえば胎盤・臍帯異常や心奇形などの胎児異常など)を分別する能力です。これができなくては一次施設でハイリスクを扱うのと同じ結果になり兼ねません。


そして真に恐ろしいのは、ロ−リスク群の中から突然現れるハイリスク症例です。常位胎盤早期剥離、急性妊娠性脂肪肝、HELLP症候群、といった急激な進行で発症し予後の悪いものはいち早く発見し対処する必要があります。

また、全く異常なく進行中の分娩であっても、生まれてみたら新生児の具合が非常に悪いというのもよくあることですし、母体側にしても、分娩後の異常出血など予測できない緊急事態はしばしば発生します。


一次施設において帝王切開に対応できる能力を持つことなども重要ですが、地域の周産期医療体制がしっかりしていれば、つまり一次から二次への搬送がスムースであれば、一次で対応しきれないリスクをカバーすることが出来ます。


しかし最初に書いた通り二次施設の能力が落ちてくると連携がうまく行かなくなり、搬送に要する時間、距離が増大します。緊急時というのは一刻を争う事態なわけですから、不幸な結果が増大するのも自然な成り行きです。


現実の問題として、二次周産期医療が地方を中心に崩壊している現在、受け皿の無いハイリスクを避けるために一次施設の縮小も始まっています。行き場の無くなった妊婦は越境するか未受診妊婦となるしかありません。これが分娩難民の発生という問題の本質です。お産する場所がないからとりあえず設置コストの低い一次施設を増やそうというのは問題の解決になんら寄与しません。むしろ現存の二次施設のカバーすべき負担が増え、崩壊のスピードが増す一方です。


さらにいうなら、一部に見られる「医師の負担を減らすために正常な分娩は助産師外来、助産院で」という主張は何の意味もないどころか、たちの悪い寝言でしかありません。きちんと管理されていない妊娠ほど医師の負担を大きくするものはないからです。


結論としては、この先、周産期死亡率が悪化するのは必然です。おそらくそれは今後5年以内に全国レベルでそうなるでしょう。それを避けることが出来ないまでも、暗黒の期間を短縮するために何ができるかを考えるしかありません。

例えるなら今は世界終末時計の23:58 (2 Minutes to Midnight)辺りでしょうか。